お墓の管理や葬祭供養のすべてを任せていたお寺の檀家を辞める、離檀。
本来は墓守である自分自身がお墓のある場所から離れて暮らしている、墓守をする後継者がいない、子孫に維持費などの負担をかけたくない、など様々な理由からお墓を別の場所に移したり整理したりする人も増えました。
もともと檀家制度は地域や家族に根付いた習慣の一つでしたが、都市部への人口移動や少子化など時代の流れも相まって、お墓のそばで管理することが難しくなってきたのです。
そのうちに墓守も亡くなったり、誰が墓守なのかもわからなくなってしまったりして、無縁仏となってしまう……ということも少なくありません。これは現代日本の社会問題の一つでもあります。
檀家制度の歴史や離檀については、「離檀とは?」の記事も併せてご覧ください。
社会的な話題にもなっている無縁仏の問題。その解決策として、無縁仏となってしまわないように、お墓のことがわかる人間が生きているうちに、自分がなんとか動けるうちに、「墓じまい」をしようと考える人が増えました。
しかしそこで浮上するのが、お墓の管理を任せていたお寺との関係です。お墓を移したり整理したりするということは、当然そのお寺からお墓がなくなるわけですから、お墓の管理や葬祭供養について、それまでと同じようにお寺に依頼することはなくなります。
もちろんそれに伴い発生していた諸費用やお布施を収めることもなくなります。つまり、離檀はお寺にとっては大事な収入源を一つ失うことになるわけです。
お寺の懐事情
ここで、お寺の経営事情について少し触れておきましょう。
お寺の収入は、葬祭供養など法要の際に檀家から受け取る“お布施”と、檀家が支払う年会費、つまり管理維持費である“護持費”の二つから成り立ちます。
ですから当然、檀家の数が多ければその分、収入があるということになります。だだし、これはあくまでお寺としての収入です。住職の手取りは、お寺の収入から諸経費を差し引いた分となります。
ほとんどのお寺は宗教法人で、宗教法人は非課税であることは多くの方がご存知かと思いますが、住職の収入にはもちろん所得税がかかります。
寺院経営にあたっての、利益を生み出せるか否かの目安となる、いわゆる損益分岐点は「檀家300軒」と言われているそうですが、このご時世に檀家300軒を有するお寺がどれほど存在するでしょうか。
もちろん敷地の広さや本堂など建物の大きさによっても多少の差異はあると思いますが、いずれにせよ上記を勘案すると、お寺そして住職の懐事情というのもなかなか厳しいのが現実のようです。そのため、いくつかのお寺の管理を兼務したり、教員など別の職業を兼業したりして、生計を立てている住職も少なくありません。
また、お寺の土地や建物などの財産は法人の所有物ですが、様々な重要事項については檀家の中から選ばれた総代と呼ばれる代表責任者と共に決定します。
例えば、経営困難に陥り先行きが見通せなくなった状態で、廃寺しようとします。しかしこれは、檀家の同意が得られればできる話なのです。
というのも、本堂の取り壊しや檀家のお墓の移転など、廃寺をするためにかかる莫大な費用のほとんどを檀家が負担する、という古い慣習がまだ残っている地域もあることから、檀家の総意を得られなければ、住職の一存では廃寺もできないわけです。つまり、赤字経営をし続けることになります。
ですから、“お寺は儲かる”というのは、今は昔の話なのです。
離檀は困難?
以上のような事情もあり、檀家を一つ失うということは、お寺にとっては一大事です。離檀する際にお寺にいい顔をされなかった、という話を聞いたことがある方も多いでしょう。それは、お寺の経営に大きく影響することだからなのです。
もう一点、離檀の際によく取り沙汰されるのが、離檀料の問題。離檀は許可するけれどもその代わり離檀料を払ってくださいね、と請求されるのです。ただしこれは、法的には支払う義務はありません。この離檀料については、別の記事でもご紹介していますので、参考になさってください。
さて、こうした理由から“離檀することは困難なこと”“離檀はお寺とのトラブルを招きやすい”というイメージが強いかもしれません。でも、私たちには憲法で定められた信教の自由がありますから、ある特定の寺院の檀家であり続ける必要はないのです。
スムーズに離檀するために大切なこと
では、どうしたらスムーズに離檀の話を進められるでしょうか。
まず大切なのは、これまでお世話になったお寺へ感謝の気持ちをきちんと伝えることです。
もちろんお寺や住職に対して、嫌なことがあったり何かが憎くなったりして離檀をするわけではありませんし、家族の将来を考えての最善の選択であることを、しっかり伝えて理解してもらう必要があります。
それにやはり、家族が代々お世話になったお寺や住職と、最後に揉めたくはありません。できることなら後味のいい終わり方をしたいですよね。
そしてもう一つ大切なのは、家族のみならず親族の同意を得ることです。
地域によっては、親族一同で檀家になっているケースも多いと思います。一家族だけ離檀をしても、ほかにお墓をそれぞれ持っている親族は、その後もお寺のとのお付き合いが続く可能性もあります。
また身近な家族間であっても、意見の相違もあり得ます。家族や親族に何の相談や報告も無しに離檀をすることは、やはりマナー違反です。よく相談をして同意を得た上で、離檀を決めましょう。
離檀の仲介
この二点をクリアした上で話を進めていきますが、それでも途中で関係がこじれてしまったり、問題点が浮上したりすることもあると思います。また専門的なことで、自分にわからないからこそ不安も大きいですよね。
また、相談すべき家族や親族がいないために、自分の一存で離檀を決定できるけれども、実際どのように進めたらいいかわからない方も多いようです。
先代から受け継いで引き続き費用を支払ってお寺に管理はお願いしていても、代替わりしたために住職に会ったことがないという方もいるでしょう。業務的なやり取りしか交わしていない顔も名前も知らない住職を相手に、話が進めにくいというケースも多いようです。
そこで最近注目されているのが、離檀の仲介です。
若い世代になればなるほど、都市部になればなるほど、檀家制度そのものに馴染みがなくなっていきますので、いわゆる専門的な話はわからない、という人も増えています。
しかし、墓じまい、つまりお墓の改葬には様々な手続きが必要です。また法的に定められた権利や自由もありますので、段取りを進める上で嫌な気持ちになったり金銭的に損したりしないように、注意することも必要です。
このような素人ではわかりにくい部分を、業界のプロにサポートしてもらいながら話を進めていくのです。こうした離檀の仲介業者をうまく利用することも、スムーズに離檀する方法です。
無料相談を行っている業者も多いですので、まずは電話などで問い合わせをしてみてから、離檀に向けて進めていくのもいいと思います。
身近にご相談できる人がいればご相談しながら、ご自分に合った進め方を見つけてみてください。
また、書類の提出など、離檀に伴う手続きの流れについては、別の記事でご紹介しています。是非参考になさってください。